小話「存在しない監視カメラ」
遼の職場には彼専用の監視カメラが設置されている。会議室、デスク、休憩室すべてだ。
「なあ、なんでお前の席だけ監視カメラついてるんだ?」 同僚の田中がある日、思い切って聞いた。
「気にするな、田中。それは俺の妄想だ。」
「いや、物理的にそこについてるんだって。みんな見てるから。」
「幻覚を真に受けるなんて、お前疲れてるんじゃないか?」
田中は絶句した。監視カメラがズームインして遼の書類を見るのを横目に、田中は心の中で叫んだ。
(いや、どっちが病んでるんだよ!?)
ある日、遼は友人とカフェに行った。窓の外には明らかに遼を追尾しているカメラ付きのドローンが三機飛んでいる。
「なあ、遼。あれ、なんかおかしくないか?」
「ん?なんだ、またお前の妄想か。」
「いやいやいや!おかしいだろ、明らかにお前の動きを追ってるぞ!?」
「気にするな。深層心理が作り出したものだ。」
友人は思わずテーブルを叩いた。「いや、深層心理がドローンまで飛ばすか!?」
遼はコーヒーを一口飲みながら静かに答える。 「そういうこともあるんだよ。」
ついに周囲の人間たちが「これはおかしい!」と集団で彼に訴え始めた。
「これを見てくれ!」 彼らは遼をモニターの前に連れて行き、無数の監視映像を突きつけた。画面には彼の自宅、職場、カフェでの様子が鮮明に映っている。
「これでもまだ妄想だって言うのか!?」
遼はモニターをじっと見つめた。 「なるほど。これも俺の妄想だな。」
「どこがだよ!」
全員が叫ぶ中、遼はただ静かに席を立ち、家に帰った。
家に帰った遼を迎えたのは、いつものように部屋中に設置された監視カメラだった。その全てが微妙にレンズを動かし、彼を見守っている。
遼は一つ大きく伸びをして、ポツリと呟いた。
「ああ、俺の妄想もここまでリアルになったか。面白いもんだ。」
その瞬間、カメラの一つが微かに揺れたように見えた。
画面が暗転し、ラストカットは監視カメラ視点から映し出された遼の姿。そして字幕が表示される。
「・・・・鈍感すぎる。」
常識を覆すとはこういうことです。
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